05


來希は俺から視線を外さぬまま口を開く。

「何をしてようがアンタには関係ねぇだろ。さっさと消えろ」

その口振りから來希が声をかけてきた相手を嫌っているのが分かった。

しかし、相手も大人しく引くような奴じゃないのか來希の言葉に怯むことなく言ってくる。

「確かに俺にはてめぇが何をしてようと関係ねぇ。だがな、場所を考えろって言ってんだよ。その頭は飾りか?」

「フン、アンタに言われたくねぇぜ」

來希は顔だけで相手に振り向き、嘲るように言い返した。

そして俺は、來希の注意が反れてる今しかねぇと右足に力を込め、來希の脛辺りに思い切り鋭い蹴りを放った。

「―っ、てめぇ」

意識を反らしていたとはいえ、來希はやはりギリギリで俺の蹴りを避けた。

ちっ、反射神経良すぎんだよコイツ。

それでも、拘束を外すにはその隙があれば十分で俺は掴まれ押さえ付けられていた両腕の自由を取り戻すと、屈み込み來希の横をスルリと駆け抜ける。

ちゃんと眼鏡も拾って。

「久弥!」

來希が怒鳴ってきたが無視だ。応えてやる義理も義務もねぇ。

そこで、俺はやっとエレベーターの入り口に立つ人物を視界に捉えた。

「――っ」

…お前は、紅蓮の!!

紅蓮の頭、志摩 遊士!!

漆黒の髪に、黒より深い闇色の瞳が俺を写す。

「へぇ、今度はコイツか。箸休めか?それとも趣旨変えか?」

その瞳は嘲りを含んで向けられた。

俺はその無遠慮な視線に怒りを覚えたが、取り敢えず今はこの場から離脱することを最優先にした。

來希だけなら何とかなるかもしれないが今は遊士がいる。

一度手合わせをした事があるがコイツは強い。

それに、何でコイツがここにいるのか知らないが今ここで正体がバレるワケにはいかねぇ。

俺は遊士の横をすり抜けエレベーターから逃げ出した。

「くそっ、邪魔しやがって」

來希はエレベーターから降り、遊士を睨み付ける。

「はっ、俺が邪魔しなくても逃げられてたんじゃねぇのか?」

擦れ違い様、遊士は唇を歪めて笑った。

しかし、來希はそれを無視して歩き出す。

閉じていく扉の向こうに、その後ろ姿を愉しそうに眺め遊士は壁に寄り掛かった。

「おもしれぇ…」

來希の脛に向かって放たれた鋭い蹴りは、喧嘩慣れしている奴のそれだった。

それに何よりアノ橘から逃げた。

優等生という、見た目にそぐわない行動。

「何かありそうだな。…くくっ、アイツが見つかるまで調度いい暇潰しになってもらうか」

遊志は口端を吊り上げ、一人静かに笑った。

ヒサ、お前が俺の前に出てこねぇから悪ぃんだぜ?


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